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プロローグ

ペット探偵物語 ~僕の76日間迷子猫捜索活動記録~



ジジッ、ジジッ、ジジッ・・・・・。

夏になって、草むらに
虫の音が聞えるようになると、

満天の星空の下で
迷子になった愛猫を待ち続けた夜を思いだす。

ちょっとした不注意から、

その後2カ月半もの間、
延々とあやつを捜す羽目に陥ってしまった。

しかしその間、
僕はたくさんの優しさに包まれ、

そして、とても大切なことを学んだ。

懐かしい思い出とともに、
その顛末をここにまとめようと思う。

題して、

「ペット探偵物語~僕の76日間迷子猫捜索活動記録~」

最後まで、どうぞお付き合いください。


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[01] 猛 暑

ペット探偵物語 ~僕の76日間迷子猫捜索活動記録~


2004年8月13日。
その日は猛烈な暑さだった。

頭上から矢のような日差しが降り注ぐ。

おそらくその暑さに参って、
意識が朦朧としてたのだろう。

僕の動きはひどく緩慢になっていた。

そして帰省先まであと少しというところで、
片田舎のホームセンタに立ち寄ったとき、
(具体的には福岡県宗像市光岡のホームプラザナフコ南宗像店)
  
迂闊にもドアを閉めるのが遅れて、

車中からうちのにゃんこが
勢いよく飛び出してしまった。

「あっ、やばい! こら、ちょっと待て!」

今思えばあのとき
慌てて後を追いかけたのがいけなかった。

うちのは完全室内飼いの猫で、
外の世界を一度も経験したことがない。 

それこそ何1つ危険のない
非常に快適な空間で、

平和に毎日を過ごしていたのだが、

それがいきなり表に飛び出て、
強烈な光と騒音の渦に遭遇し、
(現場は結構交通量が多い場所である)

おそらく一瞬で
パニックに陥ってしまったのだろう。

僕が必死に呼びかける声も聞かずに
あっという間に駐車場脇の茂みに逃げ込んでしまった。
(あんなに逃げ足の速いのを見たのは初めてだった)

「あ~、あ~っ、やっちゃったよー」

目の前で起こった事態を
よく呑み込めてなかったせいかもしれないが

その時の僕には、
まだ気持ちに余裕があった。

「お~い、そんなとこに隠れてないで
早く出て来~~い!」

逃げ込んだ茂みの前で
何度となくあやつの名を呼んでやる。

しかしターゲットは
いっこうに姿を現す気配がなかった。

そうだな、今はちょっと無理かな?
たぶんすんご~~く興奮してるんだろう。

でもしばらくすれば落ち着きを取り戻して

何事もなかったように
「ニャ~ン」と出てくるだろうと思って、

とりあえず嫁さんを帰省先に送り届けてから、
あやつがのこのこ姿を現すまで
 

・・・・僕はその場でじっくり待つことにした。


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[02] 待 機

ペット探偵物語 ~僕の76日間迷子猫捜索活動記録~


うちのにゃんこが逃げ込んだ茂みは
広さにしてざっと100坪くらいで、

雑草たちは日差しをたっぷり浴びて、
人の背丈くらいに成長している。

その前に腰掛けて待つこと3日間。

「落ち着いたらすぐに出てくるだろう」という
当初の見込みはものの見事はずれて、

待てども、待てども

・・・・あやつは姿を現さなかった。


[逃亡日] 

昼間~夕方まで待機したあと、
ホームセンター店長さんの許可を得て
夜~明け方まで待機続行。

深夜3時すぎぐらいになると
たまらなく睡魔が襲ってきて、

生まれて初めてアスファルトの上で横になった。

ひんやりとしたアスファルトの肌ざわり。
見上げる満天の星空。

一晩中聞こえていた
ジジーッ、ジジーッという虫の音は

やがて昇ってくる朝の光に
さーっとかき消されてしまった。


[2日目] 

まったく予想外の展開だった。
このままではいつまでたっても埒があかない。

そう判断した僕は、
午前中に手書きの迷子猫チラシを作成し、
ホームセンターでコピーして周囲の住宅地に投函してまわった。

ついでに住民さんに事情を説明して
目立つところ数箇所にポスターを貼らせてもらった。

本業が自営業で、
いわゆるチラシ作成とポスティングは
得意のはずだったが、

真夏の陽射しの中、
ほとんど一睡もしていない身体で、

かつて経験したことのない
アップダウンの激しい地域を
1軒1軒投函するのはさすがに堪えた。

「なんでこんなに起伏がキツいんだよ?」
「おいおい、これって反則じゃないのか?」

ってな感じで、
わからないことを呟きながら
なんとかポスティングを終えると、

いったん帰省先に戻って夕方まで仮眠。

さらにそのあとは
日が沈んでから翌朝まで

ふたたび茂みの前で
虫の音を聞きながら待機。

・・・・そう、ひたすら待機。


[3日目]

お盆休みの最終日。

夕方には自宅に戻って
仕事の準備に取りかからなければならない。

そうなったら僕はもう
あやつを探すことができなくなる。

ここへきて僕は、
本当に焦っていた。

たまらずにホームセンターで
自動草刈機を購入し、

店長の許可を得て
茂みの草を刈ることにした。

「もういいだろ?いいかげん姿を現せよな!」

草刈機の刃が激しい音をたてて
雑草を切り倒していく。

「くそっ、ここもダメか!」

いつまでたっても広い草むらから
ターゲットを見つけ出すことができない。

「ようし、次はあそこだ。」
「いや、きっとあの辺に隠れているはずだ!」

 そして、とうとう迎えたタイムリミット
 
「・・・・・」

そのとき僕は、思わず天を仰ぎ、
6年間一緒に仲良く暮らしてきた愛猫との

・・・・永遠の別れを覚悟した。

鉛のように重たい手足。
汗だらけ泥だらけで目も当てらない顔。

すっかり沈んだ気持ちで
よたよたと帰り支度を始める。

「・・・・」


小一時間ほどで無言の後片付けを終えると、

帰りしな、茂みに向かって、

「今までありがとな。じゃあ、元気で暮らすんだぞ!」
「いいか、どんなことがあっても生き延びるんだぞ!」

と声をかけた。

後ろ髪を引かれる思いというのは、
こういうことを言うのだろう。

もう、家に帰ってもあやつはいない。

もう二度とあやつを抱いて
愛撫してやることができなくなるんだ。

それを思うと、胸がじ~んと熱くなって、

いい歳こいたおっさんが、

本当に、


・・・・泣きたくなった。


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[03] 依 頼

ペット探偵物語 ~僕の76日間迷子猫捜索活動記録~


傷心の盆休みが終わり、
翌日から職場に復帰した。

本業の夏はとんでもなく忙しい。

朝から晩まで休む間もなく働いて、
声は枯れるし体力も激しく消耗する。

しかしこうやって
忙しくしている間は、
あの悪夢の出来事を忘れることができた。

職場のみんなも頑張っている。
僕も負けるわけにはいかない。

ところが仕事を終えて帰宅し、
それまでの緊張から解放されると

その反動で
気持ちは暗闇へと叩き落とされた。

そう、
いっつも僕の傍らをついてまわって
思い切り甘えまくっていた

・・・・あやつがいない。

いくら探しても、
どこにも見当たらない。

一度は永遠の別れを覚悟したものの、

そして

「もしこれで死んだらそれは寿命なんだ、
仕方がない」と強がってみせても

実際そんなに簡単に
割り切れるものではなかった。

運悪く2004年の夏は台風の当たり年で、
次から次へと猛烈な嵐が
この地域に襲いかかっていた。

はたしてあやつは
生き延びることができるだろうか?

どうしても心配でたまらない僕は、
暇を見つけてはネットで
迷子猫に関する情報を集めた。

そしてそこではじめて
ペット探偵という存在を知ることになる。

「なるほど、こんな仕事があるのか?」

読めばなかなか興味深い案内や
記事が書いてある。

そうやって
いくつかのホームページを
読み漁っていくうちに、


・・・・僕は、気づいた。


(1)あやつが逃げてから、
僕はやってはならないミスを犯していた。
(見つからないのは当然だった)

(2)しかしそれでも、
 あきらめずに探せば
今回は発見できる可能性が高く、

 そういった意味では
非常に恵まれたケースである。
(自宅から現地までが少し遠いことを除いて


(3)そしてあやつは、
 今も確実に生きていて、

僕が捜し出すのを


・・・・ じ  っ  と  待  っ  て  い  る  !


散々考え抜いて、僕は嫁さんに相談した。

「本当は現地に赴いて毎日でも探したいが、
 何しろ今は身動きがとれない。」

「ついては、東京からペット探偵を呼んで
捜索を依頼したい。」

「出張料や交通費・宿泊費込みで
25万ほどかかるが、いいか?」

(首都圏近郊なら7~8万くらいで済むそうだが・・・・)

すると嫁さんは洗濯物をたたみながら
「あんたがそうしたいのなら、やればいい」
と言ってくれた。


「ありがとう。恩にきるよ。」
そう言うと僕は、すぐに携帯を取り出して

・・・・東京のとあるペット探偵にコールした。


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[04] 対 価

ペット探偵物語 ~僕の76日間迷子猫捜索活動記録~


ペットの捜索費用が25万と聞けば、
たいがいの人は「高い!」と思うだろう。

正直これは僕にとっても
こたえる出費だった。

しかしその3分の2以上は実費で、
それを差し引いた捜索料そのものは、

・・・・まあ、妥当なものだと思う。

一番大きいのは交通費や宿泊費かな?
近場に探偵さんがいれば良かったんだけど。

もちろん、支払いは前金の一括払い。

ペット探偵のHPには
発見率は70%くらいと出ているが、

その中には契約期間(3日間)の後に
飼い主が自力で発見したケースも含まれる。

実質、契約期間中に探偵さんが発見する確率は
30~40%くらいじゃないだろうか?
(違ってたらすみません)

もし発見できなかった場合に
飼い主から「代金は支払わない!」と
ゴネられたんじゃたまったもんじゃない。

それを考えると
前金での支払いも当然だと思う。
(それが嫌なら頼まなければいいだけの話だ。)

本当に賭けに近い話なのだけれども、

これから毎年帰省するたびに
あのホームセンターの前を通過して

あやつのことを思い出すのは
絶対耐えられない。

となると、残された道はひとつしかなかった。

失敗に終わるかもしれないが、
「絶対に後悔しないゾ!」と
僕は自分に強く言い聞かせる。

ところが、約束の日、空港に降りたった
探偵さんの風貌を目にしたとき

もろくもその決心は

・・・・音をたてて崩れてしまった?


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[05] 重 圧

ペット探偵物語 ~僕の76日間迷子猫捜索活動記録~


現れた探偵さんは、
30代前半くらいに見えた。

ジーンズにTシャツとリュックという
いたってラフなスタイル。

すごく優しそうな男性だ。

ペット捜索ってハードな仕事だと思うけど
大丈夫かな?

少し不安が頭をよぎったが、
あまり時間もなかったので、

そのまま空港のラウンジで
最初の聴き取り調査に臨んだ。

「それでは、ネコちゃんの
特徴を細かく教えてください」

「はい、よろしくお願いします。」

「まず、年齢は何歳ですか?」
「・・・・は?」

「体重は何キロありますか?」
「・・・・は??」

「瞳は何色ですか?」
「・・・・は???」

いや、正直言って
これはショックだった。

(たぶん汗をかいてたんじゃないかな?)

だって、そのとき初めて僕は 

6年以上も一緒に暮らしてきて
あんなに可愛がってたあやつのことを、

ほとんど何も知らないことに、
気付いたのだから。

いや、おおまかなことは答えられるの。

たとえばあやつの性格とか、
印象に残っているエピソードとか、

そういう抽象的なことなら
いくらでも答えられるのだけど、

具体的な特徴となると、
何ひとつ自信を持って答えられない。

かろうじて覚えてたのは
性別と後ろ足の欠損ぐらい?
(拾ったときから足が切れていた。)
(でもこれもあらためて訊かれると
右足だったか左足だったか心もとない)

全体的な毛の色にいたっては、
僕と嫁さんとで見解が全然違う。

また「どこから毛の色が変わってたか?」とか
あるいは「尻尾の長さは何センチくらい?」とか

探偵さんから質問されるたんびに
「ちょっ、ちょっと、待ってください」と

いちいち写真を取り出して確認するしかない。

そうそう、たしか
尻尾が途中で折れ曲がってたけど、
え~っと、どの部分からどっち向きに
曲がってたっけ?

お、おっ、お~~~~い!

・・・・この写真じゃわかんないよー!

「こういった細かい特徴は、
正確に提示しないと
捜索に大きく影響しますので」 と

探偵さんからそう言われると、

なんか、すんごい、


・・・・プレッシャーなんでスけどおー(汗


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[06] 不 安

ペット探偵物語 ~僕の76日間迷子猫捜索活動記録~


とまあ、こんな感じで
戸惑ったこともあったけど

なんとか
最初の聴き取り調査が終わった。

となれば、
次はいよいよ捜索開始!

と思ったが、

どうも、
予想してたのと展開が違う。

空港でいったん別れて
僕はすぐに職場に向かったのだが、
(なにしろ夏は稼ぎ時なので)

探偵さんのその後の移動経路は
レンタカー店 → 市役所(なんでだろ?)→ ホテル

そのあと夜の9時に、
あやつの逃亡現場で落ち合あうことになった。

そして約束の時間に遅れること25分くらい?

ホテルに缶詰になってた探偵さんが
レンタカーに乗ってやっとこさ到着した。

「すみません、遅くなりました。」

たぶんそのとき、
僕の顔は少しひきつっていたと思う。

「・・・・」

そう、心の中で渦巻いていたのは
「いつになったら捜索を開始するんだ?」
という疑念だった。

朝空港で別れて、
夜までこの人は何をやっていたのだろう?

あんなに時間があったのに
全然捜索してないみたいだし、

こうやってモタモタしている間に
あやつが別の場所に移動してしまったら
どうすんの?

しかし、そんな心配をよそに
探偵さんのペースは
いっこうに変わる気配がなかった。

そして彼は、
リュックから住宅地図とチラシを取り出した。

ここで謎の行動が明らかになる。

最初に彼が市役所に向かったのは、
現地周辺の※住宅地図を入手するためだった。

そしてホテルに缶詰になっていたのは、
僕が手渡した写真をもとに
チラシとポスターを作成していたからだ。

「思いのほか時間がかかってすみません」と
出来上がったばかりのコピーを見せてもらったとき、

正直、僕はがっかりした。

(何じゃこりゃ?えらいお粗末なチラシやな~。)
(これだったら僕の方がずっと上手につくれるゾー)

しかし、残された時間にも限りがある。

もうあれこれと贅沢は言ってられなかったので、
とりあえず僕は、

言葉にならない不安や不満を呑み込んで

「ありがとうございます。」と礼を述べた。

-----------------------------------

※これは余談だが、最初僕は、
住宅地図の重要性をまったく認識してなかった。

しかしそののちすぐに、
迷子ペット捜索には住宅地図が
絶対不可欠だと痛感することになる。

「地図のない捜索はあり得ない!」
と断言してもいい。

巷には地図を使わないペット探偵もいるみたいだが、
そういう人とは契約をしない方が、


・・・・・身のためだと思う。


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プロフィール

ミラクル銀河伝説

Author:ミラクル銀河伝説
福岡市早良区在住のギター弾きです。人前で演奏するのが好きですが、自分の演奏だけはお客さんが集まらないので、地元の実力派ミュージシャンにご協力戴いてイベントを主催しています。出演希望の方は奮ってご応募ください。/参加費無料(ギャラも無ごめんなさい)
[アドレス]mail@gingamusic.com

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